水島広子「対人関係療法でなおす『気分変調性障害』」

以下の特徴を持つ、「気分変調性障害」について、病気の内容やその治療について扱った書籍。
○ 長期に渡り慢性的に続くうつ状態。「性格」として捉えられやすい。
○ 低い自己評価、「自分をいじめる」思考
○ 主に学生時代に発症。大きなきっかけがあるわけではなく、「いつの間にか」かかっているケースが多い。
○ 仕事など、役割が明らかな場では、「要求されるであろうやりとり」ができるが、自分たちで関係を作っていく、個人的な関係は苦手。

p149
 対人関係療法は、単なる自己主張のための技法ではありません。(1)気分変調性障害という病気のためにどれほど自己主張が難しくなっているかをよく学び、(2)相手との間にどういうやりとりをすると症状にプラスやマイナスがあるのかをよく調べ、(3)本当に伝えるべきことは何なのかを検討し、(4)もっとも安全でわかりやすい伝え方を研究する、という一連の大きな流れのなかで、本人なりのプロセスを歩んでいくというところが一番の本質です。


p151
 自分の気持ちを周りの人に話しながら難しい変化を乗り越えるというのは、自己コントロールのための一つのスキルだとすら言えることです。それができないために病気になったり面倒な状況を招いたりしている人がどれほど多いかを考えると、「愚痴」はむしろ言うべきだと言えるでしょう。
 そもそも、「愚痴」というのも価値判断を含む変な言葉です。人に話を聴いてもらうときには、その目的を明らかにするのもよいやり方です。「今、適応するのが難しい変化に直面しているから、乗り越えられるように、ちょっと話を聴いてくれる?」というふうに頼めば、「愚痴をいう弱い人」とは思われないはずです。それでも嫌がる人には、そもそも話してもろくなことはないでしょう。自分の気持ちは安全な環境で聴いてもらうことが重要だからです。
 また、私の臨床経験からは、「愚痴をいうのは弱い証拠」と言っていたような人ほど、その後のちょっとした変化でバランスを崩して病気になる、という印象があります。「”愚痴を言うのは弱い証拠”と言うのは弱い証拠」というところが、案外本当のところなのではないでしょうか。人に支えてもらいながら困難を乗り越えていく、というのはまちがいなく一つの力です。


p158
 最近の傾向の一つとして、「すきま時間の活用」「常にスキルアップ」など、あらゆる時間的空間を利用して自己を向上させよう、というような風潮があるように感じます。(中略)気分変調性障害の人にとって、これはもちろん危険な風潮です。ただでさえ、自分は何かすべき努力を怠っているのではないか、という気持ちを持っているのですから、そこを直撃するようなものなのです。
 (中略)
 必要なのは、むしろ「もっとすきま時間を増やすこと」です。


p181
 気分変調性障害の症状と共に生きて行くにあたってもっとも重要なのは、何が症状なのかを認識していくことです。
 (中略)
 そのときの目安としては、「自分をいじめるような形」のものはすべて疑ってかかるのがよいでしょう。


p183
 自分がネガティブな感情、特に怒りや不満を感じるときには、何らかの「役割期待のずれ」があるときです。ですから、怒りそのものに怖れを感じるのではなく、そこにどのような役割期待のずれがあって、どうすれば解消していくのか、ということを考えてみてください。