読売新聞「人生案内」より

このコーナーはけっこう好き。
今日のものを紹介させていただきたい。
自分と重なる部分がある相談。
回答者の回答にも熱くなるものがあった。
 

20代半ばの女性。薬科大学に編入し、薬剤師を目指しています。他の同年齢の人より感受性が鈍く、精神的に幼いのが悩みです。

 口下手で人付き合いが苦手なため、友達があまりできませんでした。彼氏がいたことも一度もなく、本もろくに読まないでいました。

 世間知らずで幼稚なままではいけないと思い、前の大学を中退。今の大学に入るまでにいろいろなアルバイトを3年間経験し、仕事の大変さを学びました。新聞を読んで読解力を身に着け、日記をつけて表現力を磨きました。

 こうした努力を重ねても、人の話にまともな受け答えができず、コミュニケーションが苦手なままです。こんな自分が恥ずかしいです。

 頭では「余計なことを考えず、目の前のことに集中しよう」と思っても、いつもどこか余計な力が入り、空回りばかりの私。明るく成熟している大人になるには、どうすればいいでしょうか。(埼玉・Y子)

 精神分析学者のフロイトは成人といえる要件に「愛することと働くこと」を挙げています。ここでの「愛する対象」は異性に限らないと私は解釈しています。身近な人を大切に思い、自分自身の人生に正面から向き合うことだと思います。

 あなたはご自分の欠点を自覚し、その克服のために懸命な努力を払ってこられましたね。最初の大学を中退し、新たに薬剤師となるために編入までしています。ご自分の将来にこれほど真摯(しんし)な人が、なぜ感受性の鈍さや精神的な幼さを悩む必要があるのでしょうか。あなたは既に立派に成人特性を備えておられると思います。

 ただ一つ、考え違いをしているとしたら、成熟した人は皆「明るく」生きているように思っていることかもしれません。明るく見えても、実は水鳥のように水面下ではもがいている人が大半です。もがきつつも、その姿にゆとりが感じられるとしたら、それは若い時から自分の至らなさや失敗を当然のこととして受け入れ、努力を惜しまない時間を積み重ねてきたからだと思います。あなたもどうか悩むことに自信を持って、これからも前を向いて生きてください。

 (大日向 雅美・大学教授)
(2012年1月11日 読売新聞)