「この国を出よ」大前研一、柳井正

 大前さんと柳井さんのリレー形式の対談本。
 対談というか、特定のテーマに対して、お互いの主張をそれぞれ述べて、その中に相手の発言内容への言及を少し含める、という程度なのだけれど。
 特に若者に対しての、海外に目を向けよ、海の外に飛び出して、視野を広げ、交流し、経験を積むべし、という内容。
 とにかく、大前さんの圧倒的な知識と見識に圧倒される。
 印象に残った部分3つ。


 民主党の仙石由人氏は国家戦略担当相だった2010年5月、記者会見で、ギリシャの危機について、「他山の石としたい」などと寝ぼけたことを言っていましたが、日本の危険度は、すでにギリシャのレベルを超えています。「他山の石」でも「対岸の火事」でもなく、まさに自分の家が燃え出しているのです。

(イギリスで、大学の授業料への国の補助金が提案されたことについて)
 統計的には、イギリスでは大学を卒業して就職した人のほうが、大学に行かずに就職した人よりも将来手にする給料が高い。その高い給料の中から、生涯納める税金も、大卒者のほうが15,000ポンド(約200万円)多くなる。したがって、授業料の補助金3,000ポンド(約40万円)を給付しても、将来的に15,000ポンドが税金として国に戻ってくるので、インベストメント(投資)としては5倍のリターンになる---。実に具体的で経営的な視点を持った議論ではありませんか。

 シンガポールには、日本のように政府機関が永遠に続くという前提はありません。たとえば、アジアの中継地点として世界に先駆けてIT化を推し進めたシンガポール港湾局(PSA)は、非常に効率の良い港湾運営を実現したあとに民営化され、海外にそのノウハウを売り込む会社となりました。シンガポールでは、政策目的を決めると、それを推進するための組織ができ、目的が達成されると解体したり民営化したりするのが一般的です。2000年までにITで世界一となるために作ったNCB(国家コンピュータ庁)も目的を達成し、株式会社化しています。国全体がプロジェクトに応じて仕事をするために、組織を固定化せず、状況変化に素早くしなやかに対応できる態勢をとっています。だから日本のように「組織のために働く」「省庁のために余りそうな予算を使い切る」という本末転倒の症状じゃ現れません。